ナデシコ

z10886.jpg
やまとなでしこは日本人女性の清楚な美しさをナデシコの花に見立てて言う美称だよ。果たしてそういう日本女性がまだ存在するのかは別としてね!

撫子 Pink
属名の学名「Dianthus(ディアンサス)」は、ギリシア語で「Dios(ゼウス)」の「anthos(花)」という意味。和名の「撫子(ナデシコ)」は、その花姿が「撫でたくなるほどかわいらしい」ことに由来するといわれている。

夏の花(最盛期は6~7月)。花色はピンク、白、赤など。

ナデシコ全般の花言葉
細く糸状になったピンクの花びらが繊細な印象をあたえるナデシコの花。「純愛」「貞節」といった女性的な花言葉もその花姿にちなむといわれt。いる「大胆」の花言葉は、西洋のナデシコの赤い色からつけられたともいわれてる。
 
「大胆」「純愛」「貞節」
z10885.jpg

 
色別の花言葉
ピンクのナデシコ
「純粋な愛」
赤いナデシコ
八重咲き「純粋で燃えるような愛」
白いナデシコ
「器用」「才能」
 

ナデシコ誕生花
7月14日、7月22日、7月28日
 
ナデシコと秋の七草
古くから日本人に愛されてきたナデシコは秋の七草の一つ。
秋の七草
・女郎花(オミナエシ)
・尾花(オバナ ※ススキ)
・桔梗(キキョウ)
・撫子(ナデシコ)
・藤袴(フジバカマ)
・葛(クズ)
・萩(ハギ)

秋の七草の由来
奈良時代の貴族・歌人の山上憶良(660~733)が『万葉集』に詠んだ以下の2首が秋の七草の由来とされている。
秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌の花
「朝貌の花」は、朝顔、木槿、桔梗、昼顔など諸説ありますが、桔梗とする説が最も有力。
 
ナデシコの種類
ナデシコはカワラナデシコの別名であり、またナデシコ属の植物の総称。ナデシコ属は北半球の温帯域を中心に約300種が知られ、日本ではカワラナデシコ、ハマナデシコ、ヒメハマナデシコ、シナノナデシコなどが分布している。
 
西洋の花言葉(英語)
Pink(ナデシコ全般)
「boldness(大胆)」
Pink Pink(ピンクのナデシコ)
「pure love(純粋な愛)」
Red Pink(赤いナデシコ)
double(八重咲き)「pure and ardent love(純粋で燃えるような愛)」
White Pink(白いナデシコ)
「ingeniousness(器用)」「talent(才能)」
 
ナデシコの季節・開花時期
旬の季節: 夏
開花時期: 6月~9月
出回り時期: 6月~9月(最盛期は6~7月)
花持ち期間: 5~7日程度
 
名称・原産地
科・属名: ナデシコ科ナデシコ属
学名: Dianthus superbus var.longicalycinus
和名: 河原撫子(カワラナデシコ)
別名: 大和撫子(ヤマトナデシコ)
英名: Pink, Dianthus
原産地: 東アジア

z10887.jpg
箱根湿生花園。静岡に赴任してた時は良く行ったな!

スポンサーサイト

竹久夢二 童話集 春より たどんの與太さん


z10663.jpg


たどんの與太さん


「なんだってお寺の坊さんは、ぼくに與太郎よたろうなんて名前をつけてくれたんだろう」
 と、與太郎は考えました。
「飴あめのなかから與太さんが出たよ」街の飴屋の爺じいさんが、そう節をつけて歌いながら大きなナイフで飴の棒を切ると、なかから、いくらでも與太郎の顔が出てくるのでありました。これには與太郎も困りました。
「よんべ、よこちょの、よたろうは」
 そういって、八百屋の小僧まで、與太郎が、八百屋へ大根だの芋だのを買いにゆくと、からかいました。
「あの坊さんは、あれでエライお方なんだよ。あんなエライお方が、名づけ親なんだから、お前は、きっと今にエラクなりますよ」
 與太郎のお母さんは、いつもそういいました。加藤清正かとうきよまさは加藤清正らしい顔をしているし、ナポレオンはナポレオンらしい顔をしているから、與太郎よたろうの顔も與太郎らしいだろうか、與太郎は考えるのでした。だけど、飴あめのなかから出てくる顔は、どうもよくないや。だけど飴のなかから大そうエライ人が生まれるのかも知れない。キリスト様は、馬小屋のなかからお生れなすったし、ナスカヤ姫は、紅茸べにだけから出て来たからな。與太郎は考えるのでした。
「マリヤとグレコは、山へ茸狩にゆきました」
 與太郎は妹のお才さいに、デンマルクのお伽噺とぎばなしをよんできかせました。
「マリヤとグレコは、だんだん山の奥の方へはいってゆきました。するとそれはそれは綺麗きれいな紅茸がどっさり生えていました。――綺麗だなあ。グレコが言いました。――いけませんよ、それは毒茸ですから。マリヤが言いました。――だって綺麗だから好いいよ。――いくら綺麗でも毒なものはいけません。これはとると死んでしまいますよ。マリヤが何と言っても、グレコは紅茸をとりました。
 ――わたしはデンマルクの第二王女です。わたしは姉の女王のために、この山奥へ流されたのです。可愛かあいい親切な坊っちゃん、あたしの王様になって下さいね。紅茸の王女は、そう言ってグレコの手をとって、森の御殿へつれてゆきました。
 與太郎は、あの話を思出おもいだしました。どんな物をでも可愛がってやろう、そしてどんな物とでも話をして、仲よくしようとそう考えました。
 街を歩いても、電車のなかでも、もっとみんな仲よく話そうと考えました。そこで妹のお才と二人で街へ出かけてゆきました。
 まず酒屋のブル犬に話はなしかけました。
「ブルさん今日こんにちは、好いいお天気ですね」
 與太郎がそう言うと、ブル犬は驚いて
「ウーウー」と吠ほえましたから、お才がなき出しました。
 與太郎はお才をつれて電車通どおりの方へゆきますと、向うから、黒い毛皮のコートを着た奥さんがくるのを見つけました。與太郎は奥さんにお辞儀を一つして、
「おくさん、たいそう寒い風がふきますわね。おくさんはたいそう重そうな包を持っておいでですね。ぼくが、すこし持ってあげましょうか」
 そういうと、奥さんは白い顔のなかで、黒い眼めを三角にしていいました。
「まあ、いやな子だよ。知らない人に物をいうなんて、きっと乞食こじきの子だね、お前さんは」
 そういって、ずんずんいってしまいました。
 こんどは、鼻の頭の赤い肥ふとった洋服の旦那だんなが、坂の方から酔っぱらって下りて来ました。與太郎よたろうは旦那だんなの前へいって、
「旦那は酔っていますね。」
 そういうと、今までにこにこしていた旦那は、急にきつい顔になって、
「やい孤児院! 酔ったって余計なお世話だい。お世辞をいったって一文だってやりゃしないぞ。ぐずぐずしていると、交番の巡査にふんじばらせるぞ」
 酔っぱらいの旦那はむくむく歩いてゆきました。
 與太郎は、なんだか悲しくなりました。炭屋の子だからいけないのだろうか。與太郎という名が顔に出ているから人が馬鹿ばかにするのだろうか。與太郎は、菓子屋の飾窓のガラスに自分の顔をうつして見ました。自分の着ている服は、すこしばかり古くなっているだけで、街を歩くほかの子供たちと、別にかわった所はありませんでした。與太郎は、ふと飾窓のなかに赤い紅茸べにだけのようなお菓子があるのに気がつきました。
「紅茸だ! 紅茸だ! あれをとろうよ」
 與太郎がそういっているのを、菓子屋の番頭が聞きつけて、與太郎の頭を一つなぐりつけました。與太郎とお才さいは、なきながら家うちの方へ歩きました。質屋の横町を曲ろうとすると、いきなり真黒まっくろいものにぶつかって、與太郎は泥溝どぶのわきへはね飛ばされました。起きあがって見ると、それは名づけ親の坊さんでありました。
「坊さま、ぼくは飴あめのなかから生れたんですか」
 與太郎がきいたけれど、坊さんはもう横町を曲って、電車道の方へいってしまいました。
「おまえは、たどんのなかから生れたのよ」
 どこからか、そういう声がしました。それは質屋の小僧が、窓からいったのですけれど、與太郎は気がつきませんでしたから、やはり坊さんが、いったのだろうと思いました。
 それから與太郎は、たどんと仲よくして、もう外の物と話することをやめました。そしていまに、たどんのなかからデンマルクの第三の王女が出てきて與太郎を森の御殿へつれていって下さると、毎日考えるのでした。


プルメリア

z10871.jpg
ハワイというイメージの花だね!

プルメリア Plumeria
属名の学名「Plumeria(プルメリア)」は、フランスの植物学者で中米、南米に赴き、アメリカ大陸の植物を研究したシャルル・プリュミエ(Charles Plumier / 1646~1704)の名前にちなんでつけられた。英語では別名「Temple tree(寺院の木)」とも呼ばれてるが、プルメリアが熱帯地域の寺院に多く植えられていることに由来する。

夏~秋の花。花色は白、黄、ピンク、赤、オレンジ、複色など。

プルメリアの花言葉
花言葉の「気品」は、優美なその花姿とプルメリアの放つ優雅で上品な香りに由来するといわれている。また、「日だまり」の花言葉は、常夏の太陽の光を浴びて沢山の花を咲かせることにちなむともいわれている。

「気品」「恵まれた人」「日だまり」「内気な乙女」

 
プルメリア誕生花
1月27日
 
ハワイを代表する花
ハワイのホノルル空港を抜け出すと、甘く優雅で上品な香りにつつまれる。これはハワイを代表する花、プルメリアの香り。ハイビスカス(ハワイの州花)と並びハワイの人々に愛されるプルメリアは、公園、庭園、街路、墓地など、ゆくさきざきで見ることができる。ハワイでは、花の中心が黄色い栽培品種「シンガポール」が通年で栽培され、装飾品のレイなどに用いられている。
 
プルメリアの言い伝え
ハワイでは「満月の夜明けに、まだ朝霧に包まれたままのプルメリアの花を集めてレイを作り、好きな人に渡すことができれば、その夢が叶う」という言い伝えがあるそう。また、プルメリアの5枚の花びらにはそれぞれ意味があり、「ALOHA」の文字に込められた意味に当てはまるという。

ALOHAに込められた意味
ハワイ語の「ALOHA」は、日常的には「こんにちは」「さようなら」といった挨拶の意味で用いられているが、単なる挨拶の言葉ではなく、ALOHAの一文字ずつにもそれぞれ意味が込められている。
【A】は、Akahi(アカハイ)で「優しさにより表わされる親切さ」
【L】は、Lokahi(ロカヒ)で「調和により表わされる和合」
【O】は、’Olu’olu(オルオル)で「快さにより表わされる喜び」
【H】は、Ha’aha’a(ハアハア)で「慎み深さにより表される謙虚さ」
【A】は、Ahonui(アホヌイ)で「忍耐により表わされる我慢強さ」
 
レイ、髪飾り、コサージュ
頭や首などにかける装飾品のレイは、主にハワイにおいて用いられ、プルメリアの花はレイにもよく使われる。また、ハワイではプルメリアやハイビスカスなどの花が、髪飾りとして用いられている。髪にさすときには、未婚者は右に、既婚者は左につける。なお、タイではドレスなどに着ける花飾りのコサージュとして、プルメリアの花がよく使われる。
 
寒さに弱い花
プルメリアの原産地は熱帯アメリカ(メキシコ、中米、南米北部)であり、寒さにとても弱い植物。日本でも沖縄などの暖かい地域でプルメリアを見ることができるが、関東では夏に花のついた大きな株がときどき店頭に並ぶ程度で、あまり販売されていない。
 
毒性のあるプルメリア
プルメリアの葉や枝を切ったときに出る白い乳液は有毒。触れるとかぶれることもありますので、すぐによく洗うなど注意が必要。
 
西洋の花言葉(英語)
Plumeria(プルメリア全般)
「beauty(美)」「charm(魅力)」「grace(しとやか、上品)」
 
プルメリアの季節・開花時期
旬の季節: 夏
開花時期: 6月~10月
出回り時期: 寒さに弱く、日本での流通は少ない
 
名称・原産地
科・属名: キョウチクトウ科インドソケイ属
学名: Plumeria rubra
和名: インド素馨(インドソケイ)
別名: プルメリア
英名: Plumeria, Frangipani, Temple tree
原産地: メキシコ、中米、南米北部
 
プルメリアを国花とする国
ラオス、ニカラグア(プルメリア・アルバ)
z10872.jpg
ハワイは観光街を外れて裏通りなどに行くと治安が悪いんで気を付けて貰いたい!





バスクリン/男性向け薬用育毛剤
www.hatsutono.jp
7割以上の方が実感!薬用育毛剤≪髪殿≫2週間お試し1,080円
腎臓病・腎不全の最新治療を知る
jinentai.com
腎援隊 ノバルティスファーマ専門医が伝える最新情報はここ!
仮性の包皮 ムレてませんか?
karibauer.com
装着わずか0.5秒で嫌なムレを解消する満足度99.94%の男性用リングとは
Ads by Yahoo! JAPAN


海潮音拾遺 上田敏訳  ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン 

z10870.jpg

「黒瞳」より ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン 


おくつきに跪ひざまづき
わが父の墳塋おくつきに
とこしへの愛を
われにちかひぬ。
汝もし操なくば
一日ひとひたてし誓に
願くば過よぎる勿れ
わが父の墳塋おくつきを。

 *

天の星、
谷の花、
こゝにして子らは日をみむ、
こゝにしてわがおやゆきぬ。
うれたくも、
子らなくば
なが胸ぞ子らの墳塋おくつきならば
よぎる勿れわが父の墳塋を。

 *

やまこえて
あだ人來きたる
其眼くろし
其髮くろし
くろからむ其子らの眼も
くろからむ其かみもまた。


コスモス

z10869.jpg
ここら辺では秋に咲く一年草だけど最近は夏でも観られるよ!

コスモス Cosmos
属名の学名「Cosmos(コスモス)」は、ギリシア語の「kosmos(美しさ、調和、秩序、宇宙という意味)」に由来する。化粧品のコスメティクスも同じ語源になる。

夏~秋の花(最盛期は7~9月)。花色は赤、ピンク、白、黄、オレンジなど。

コスモスの花言葉
コスモスの語源となるギリシア語の「kosmos」には調和や秩序という意味もあり、花言葉の「調和」もそれに由来するといわれる。また、「乙女の真心」の花言葉は、コスモスの繊細で清潔感のある花姿にちなむ。
 
「乙女の真心」「調和」「謙虚」
z10868.jpg

色別の花言葉
赤いコスモス
「愛情」「調和」
白いコスモス
「優美」
ピンクのコスモス
「純潔」
※キバナコスモスの花言葉
 

コスモス誕生花
9月27日、10月5日(黄)、10月6日(赤)、10月14日(白)、10月22日(ピンク)
 
コロンブスのアメリカ大陸発見
コスモスもトウモロコシ、ヒマワリ、サボテン、カンナ、マリーゴールドなどと同じように、コロンブスがアメリカ大陸を発見(1492年)した後にヨーロッパに持ち込まれた植物。原種はメキシコ高原の標高約2,400~2,700mの高地に自生していたといい、日本でも軽井沢などの高原にコスモスが多く見られる。
 
西洋の花言葉(英語)
Cosmos(コスモス全般)
「harmony(調和)」「peace(平和)」「modesty(謙虚)」「the joys that love and life can bring(愛や人生がもたらす喜び)」「beautiful(美しい)」
 
コスモスの季節・開花時期
旬の季節: 夏~秋
開花時期: 6月~10月
出回り時期: 4月~11月(最盛期は7~9月)
花持ち期間: 5~10日程度
 
名称・原産地
科・属名: キク科コスモス属
学名: Cosmos bipinnatus
和名: 秋桜(アキザクラ)
別名: コスモス、大春車菊(オオハルシャギク)
英名: Cosmos
原産地: メキシコ
z4358.jpg
ここら辺のコスモス!





竹久夢二 童話集 春より 先生の顔


z10663.jpg


先生の顔 



   1

 それは火曜日の地理の時間でした。
 森先生は教壇の上から、葉子ようこが附図ふずの蔭かげにかくれて、ノートへ戯書いたずらがきをしているのを見つけた。
「葉子さん、そのノートを持ってここへお出いでなさい」不意に森先生が仰有おっしゃったので、葉子はびっくりした。
 葉子は日頃ひごろから成績の悪い生徒ではありませんでした。けれど鉛筆と紙さえ持つと、何時いつでも――授業の時間でさえも絵を画かきたがる癖がありました。今も地理の時間に、森先生の顔をそっと写生していたのでした。そして葉子は森先生を大変好きでした。
 森先生に呼ばれて、葉子ようこはそのノートを先生の前へ出した。先生はすこし厳こわい顔をしてノートを開けて御覧になった。するとそこには、先生の顔が画かいてあった。
 森先生は、それをお読みになって、笑いたいのを我慢して、やっとこう仰有おっしゃった。
「今日は許してあげますけれど、これからは他ほかの時間に絵を画いてはいけませんよ。これは私が預っておきます」
 葉子はお辞儀をして静かに自分の席へつくと、教壇の方を見あげた。けれど森先生は、決して葉子の方を御覧にならなかった。葉子にはそれが心配でならなかった。
 やがて授業時間がすむのを待ちかねて、生徒達は急いで家うちへ帰っていった。葉子は一番最後に学校の門を出て、たったひとり帰ってきた。途途みちみちにも今日の地理の時間のことが心を放れなかった。

   2

 つぎの日、葉子はすこし早めに家を出て、森先生のいつも通っていらっしゃる橋の上で先生を待っていた。やがて先生は、光子みつこという同級の生徒と連れだって歩いていらした。葉子は丁寧にお辞儀をした。先生は何事もなかった前のように、にこやかに「おはよう」を仰有った。それで葉子は、ほっと安心した。そしてうれしさに忙しくて、悪い気ではなく光子に「おはよう」を言うのを忘れていた。
「葉子さんおはよう!」光子はわざと意地悪く葉子の前へ突立つったってお辞儀をした。そして「葉子さん、今日は廻まわり道をしていらしたのね」
 と光子は科とがめるように言った。葉子は日頃ひごろから意地の悪い光子が好きでなかった。
「ええ」と葉子はおとなしく答えた。
 森先生は、葉子のリボンをなおしてやりながら、
「葉子さんのお宅うちは山の方でしたねえ。お宅の近所の野原には沢山に草花が咲いていてどんなにか好いいでしょうね」
「先生はあんな田舎いなかの方がお好きですか」
「ええ、毎日でもゆきたいと思いますわ」
「先生、私の宅へいつかいらっしゃいましな。そりゃあ綺麗きれいな花があるの。だって、葉子さんのお宅の庭よかずっと広いんですもの」
 光子が勢いきおいこんで言ったけれど、誰だれもそれには答えなかった。

   3

 つぎの日も、そのつぎの日も、葉子ようこは森先生を橋の上で待合して学校へ行った。けれどノートの事については何にも仰有おっしゃらなかった。葉子もそれをきこうとはしなかった。
 光子みつこは葉子が先生と一緒に学校へ来るのが妬ねたましくてならなかった。その週間も過ぎて、つぎの地理の時間が来た。
 葉子が忘れようとしていた記憶はまた新しくなった。葉子は、おずおずと先生の方を見た。先週習ったところは幾度となく復習して来たから、どこをきかれても答えられたけれど、先生は葉子の方を決して見なかった。そして光子に向って、
「巴里パリーはどこの都ですか」とお訊たずねになった。すると「佛蘭西フランスの都であります」と光子が嬉うれしそうに答えた。
 地理の時間が終ると、運動場うんどうばのアカシヤの木の下へいって、葉子はぼんやり足もとを見つめていた。何ということなしに悲しかった。
「葉子さん」そう言って後あとから葉子の肩を軽く叩たたいた。それは葉子と仲好なかよしの朝子あさこであった。朝子は葉子の顔を覗のぞきこんで「どうしたの」ときいた。
「どうもしないの」そういって葉子は笑って見せた。
「そんなら好いいけど。何だか考えこんでいらっしゃるんですもの、言って好いことなら私に話して頂戴ちょうだいな」
「いいえ、そんな事じゃないの、私すこし頭痛がするの」
「さう、そりゃいけないわね」
 葉子はじっと思入おもいいって朝子を見つめて「朝子さん」
「え」
「あなた森先生お好き?」
「ええ、好きよ、大好きだわ」
「あたしも好きなの、でも先生は私のことを怒っていらっしゃる様なの」
「そんなことはないでしょう」
 葉子は、朝子に心配の種を残らず打明けた。それから二人は森先生のやさしいことや、先生は何処どこの生れの方だろうという事や、先生にもお母様があるだろうかという事や、もし先生が病気なさったら、毎日側そばについて看病してあげましょうねという事や、もしや死んでしまっても、先生のお墓の傍そばに、小さい家うちをたてて、先生のお好きな花をどっさり植えましょうという事などを語り合った。

   4

 それから三日目の朝、学校へゆくと森先生が病気だという掲示が出ていた。葉子ようこは、学校から帰ると大急ぎで野原へ出て、いつぞや森先生が仰有おっしゃった、お好きな花を抱えきれないほどたくさんに摘みとった。
 葉子は、いつか森先生に出逢であった橋の所まで来ると、向うから光子みつこが来るのに会った。
「何処どこへ行くの?」光子がいきなりきいた。森先生の許とこへといえば、また何とか意地悪い事を言われるのがいやさに、それとなく、
「ちょっとそこまで……」と答えた。
「隠したって知っててよ、森先生の許でしょう! 先生の所へいったって駄目よ。先生はあなたのこと怒っていらしてよ。そしてあなたを大嫌いだって」
 さも憎らしそうに光子は言って、葉子の持っている花を見つけた。
「まあ、それを先生の許へ持っていらっしゃるの。そうでしょう 先生の許にはもっと綺麗きれいな花が山のようにあってよ。だって温室からとっていったんですもの。でもいらっしゃりたいなら勝手にいくと好いいわ。そんなきたない花を先生はお喜びになるかもしれないわ。あばよ」そう言捨てて光子は行ってしまった。
 あとに残された葉子は橋の欄干にもたれて、じっと唇をかんで怺こらえたが、あつい涙がはらはらと水のうえに落ちた。
 葉子はしばらく橋の上から川の水を眺めていたが、手に持っていた花束を水の中へ投捨てて一散に家うちの方へ走った。

   5

 その日の夕方、森先生の使つかいが、葉子の許もとへ一つの包を届けた。葉子は何事かと思いつつ包をとくと中からいつぞやのノートが一冊出てきた。葉子は恐る恐るノートをあけた。すると、森先生の手蹟しゅせきでつぎの事が書かれてあった。
 葉子さん。
 あなたの愛らしいノートをお返しする時がきました。
 絵を画くことは少しも悪くなかったのです。ただ、画く時でない時に画いた事だけがいけなかったのです。あなたが私のために花を摘んで下さったことも、橋の上から川へ流したことも、みんな私は知っています。あなたの心づくしの花束は、私の病室の窓の下を流れる水におくられて、私の手に入りました。私はどんなにあなたのやさしい親切を感謝したことでしょう。
 安心して下さい。私の病気はほんの風邪に過ぎません。次の月曜日からまた教場でお目にかかりましょう。
 葉子ようこさん。
 どうぞこれからはもっと善い子になって下さい。他ほかの稽古けいこの時に絵を画かいたりしないような、そしてお友達に何を言われても、好よいと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。
それでは
さようなら


海潮音拾遺 上田敏訳 ダンテ・アリギエリ 

z10863.jpg


よそ人のあざむが如く ダンテ・アリギエリ 


よそ人のあざむが如く、君も亦あざみ給ふか
我君よ、君はた知らじ、覺りえじ、世に不思議にも
俤おもかげのかくは移ろひ、變りたる深きいはれを、
そは君がたへなる色を仰ぎ見し惑ひ心地ぞ。

我心、君もし知らば、『憐愍あはれみ』のいかで堪ふべき
かうやうのつらき恥目に我心惱ましむるぞ。
見よ、「愛」は君います邊あたり、のびらかに心のどけく、
廣大の無邊力むへんりよくをぞ安んじて振ひ行ふ。

それ茲に怯おびえ戰をののくわが生氣、逐ひやらはれて
家も無く、あるは苦み、あるは失せ、今たゞ「愛」は
殘りゐてふみ止まれる獨住ひとりずみ、心地もよきか、

思ふまゝ君を仰ぐも羨まし、これわが顏の
さま變る故と知らずや。默もだしつゝ唯茫然と
われこゝに佇みきけば、官能の逃げ惑ふ聲。


花便り「ハイビスカス」

z10860.jpg
南国の花というイメージだが近場でも観られるよ!

ハイビスカス Hibiscus
古くから日本ではブッソウゲ(仏桑花 / 扶桑花)という名前で親しまれてきたが、ハイビスカスがハワイの州花になって以降、日本でもハイビスカスと呼ばれるようになったといわれている。中国南部が原産ともいわれ、英語では「China rose(中国のバラ)」と名づけられている。西洋では美しい花をバラのようであるとよく形容する。ちなみに、西洋で「日本のバラ」と呼ばれてきたのはツバキやアジサイなど。

夏の花(最盛期は7~8月)。花色は赤、ピンク、白、黄、オレンジなど。

ハイビスカスの花言葉
ハイビスカスは、一日だけ咲いてその日のうちに枯れてしまう一日花だが、日当たりのよい場所では次々とつぼみをつけて咲き続ける。花言葉の「新しい恋」「常に新しい美」は、ハイビスカスが毎日新しい花を咲かせることに由来するといわれている。
 
「繊細な美」「新しい恋」



 
色別の花言葉
赤いハイビスカス
「常に新しい美」「勇敢」
白いハイビスカス
「艶美」
 z10861.jpg


ハイビスカス誕生花
7月11日、8月10日、8月31日、9月22日(ピンク)、11月10日(赤)
 
ハワイを代表する花
プルメリアと並びハワイを代表する花、ハイビスカス。1923年にハイビスカスがハワイの州花に指定されている。
レイ、髪飾り
ハワイではハイビスカスやプルメリアの花が装飾品のレイや髪飾りに用いられる。髪にさすときには、未婚者は右に、既婚者は左につける。
 
沖縄とハイビスカス
ハイビスカスの原産地は熱帯アジアとされており、寒さに弱い植物。日本では沖縄で多くのハイビスカスを見ることができる。沖縄南部では後生花と呼ばれ、死人の後生の幸福を願って墓地に植栽する習慣があるそうな。
 
靴磨きの花
ハイビスカスは、インドやジャワなどの国で靴墨の色をよくするために利用されることから「Shoe flower(靴の花)」 の別名がある。
 
西洋の花言葉(英語)
≪Language of flowers≫ 西洋の花言葉一覧
Hibiscus(ハイビスカス全般)
「delicate beauty(繊細な美)」
 
ハイビスカスの季節・開花時期
旬の季節: 夏
開花時期: 6月~9月
出回り時期: 3月~9月(最盛期は7~8月)
花持ち期間: 一つの花は1日(開花期間は6ヵ月程度)
 
名称・原産地
科・属名: アオイ科フヨウ属
学名: Hibiscus rosa-sinensis
和名: 仏桑花(ブッソウゲ)、仏桑華(ブッソウゲ)
別名: ハイビスカス、琉球木槿(リュウキュウムクゲ)、扶桑花(フソウカ)
英名: China rose, Chinese hibiscus
原産地: 熱帯アジア
 
ハイビスカスを国花とする国
パプアニューギニア、マレーシア、スーダン

z10862.jpg
幾ら近場で観られるとはいえ、どうせなら八丈島辺りまで旅をして観る遊び心を持ってほしい!




English Bible "Leviticus 5"

Leviticus
5
1 “ ‘If anyone sins, in that he hears a public adjuration to testify, he being a witness, whether he has seen or known, if he doesn’t report it, then he shall bear his iniquity.
2 “ ‘Or if anyone touches any unclean thing, whether it is the carcass of an unclean animal, or the carcass of unclean livestock, or the carcass of unclean creeping things, and it is hidden from him, and he is unclean, then he shall be guilty.
3 “ ‘Or if he touches the uncleanness of man, whatever his uncleanness is with which he is unclean, and it is hidden from him; when he knows of it, then he shall be guilty.
4 “ ‘Or if anyone swears rashly with his lips to do evil or to do good—whatever it is that a man might utter rashly with an oath, and it is hidden from him—when he knows of it, then he will be guilty of one of these. 5 It shall be, when he is guilty of one of these, he shall confess that in which he has sinned; 6 and he shall bring his trespass offering to Yahweh for his sin which he has sinned: a female from the flock, a lamb or a goat, for a sin offering; and the priest shall make atonement for him concerning his sin.
7 “ ‘If he can’t afford a lamb, then he shall bring his trespass offering for that in which he has sinned, two turtledoves, or two young pigeons, to Yahweh; one for a sin offering, and the other for a burnt offering. 8 He shall bring them to the priest, who shall first offer the one which is for the sin offering. He shall wring off its head from its neck, but shall not sever it completely. 9 He shall sprinkle some of the blood of the sin offering on the side of the altar; and the rest of the blood shall be drained out at the base of the altar. It is a sin offering. 10 He shall offer the second for a burnt offering, according to the ordinance; and the priest shall make atonement for him concerning his sin which he has sinned, and he shall be forgiven.
11 “ ‘But if he can’t afford two turtledoves or two young pigeons, then he shall bring as his offering for that in which he has sinned, one tenth of an ephah* of fine flour for a sin offering. He shall put no oil on it, and he shall not put any frankincense on it, for it is a sin offering. 12 He shall bring it to the priest, and the priest shall take his handful of it as the memorial portion, and burn it on the altar, on the offerings of Yahweh made by fire. It is a sin offering. 13 The priest shall make atonement for him concerning his sin that he has sinned in any of these things, and he will be forgiven; and the rest shall be the priest’s, as the meal offering.’ ”
14 Yahweh spoke to Moses, saying, 15 “If anyone commits a trespass, and sins unwittingly regarding Yahweh’s holy things, then he shall bring his trespass offering to Yahweh: a ram without defect from the flock, according to your estimation in silver by shekels, according to the shekel† of the sanctuary, for a trespass offering. 16 He shall make restitution for that which he has done wrong regarding the holy thing, and shall add a fifth part to it, and give it to the priest; and the priest shall make atonement for him with the ram of the trespass offering, and he will be forgiven.
17 “If anyone sins, doing any of the things which Yahweh has commanded not to be done, though he didn’t know it, he is still guilty, and shall bear his iniquity. 18 He shall bring a ram without defect from of the flock, according to your estimation, for a trespass offering, to the priest; and the priest shall make atonement for him concerning the thing in which he sinned and didn’t know it, and he will be forgiven. 19 It is a trespass offering. He is certainly guilty before Yahweh.”

レビ記
5章
1 人が罪を犯す場合、すなわち、証言しなければのろわれるという声を聞きながら――彼がそれを見ているとか、知っている証人であるのに――、そのことについて証言しないなら、その人は罪の咎を負わなければならない。
2 あるいは人が、汚れた獣の死体でも、汚れた家畜の死体でも、汚れた群生するものの死体でも、すべて汚れたものに触れ、汚れてはいたのに、そのことが彼の目から隠れ、後で咎を覚える場合、
3 あるいは人が、触れれば汚れると言われる人のどんな汚れにも触れ、そのことを知ってはいたが、それが彼の目から隠れ、後で咎を覚える場合、
4 あるいは人が口で軽々しく、害になることでも益になることでも誓う場合、その人が軽々しく誓ったことがどんなことであれ、そのことを知ってはいたのに彼の目から隠れ、後でそれらの一つについて咎を覚える場合、
5 これらの一つについて咎を覚えるときは、犯した罪を告白しなさい。
6 自分が犯した罪のために、償いとして、羊の群れの子羊でも、やぎでも、雌一頭を、主のもとに連れて来て、罪のためのいけにえとしなさい。祭司はその人のために、その人の罪の贖いをしなさい。
7 しかし、もし彼に羊を買う余裕がなければ、自分が犯した罪の償いとして、山鳩二羽あるいは家鳩のひな二羽を主のところに持って来なさい。一羽は罪のためのいけにえ、他の一羽は全焼のいけにえとする。
8 彼はこれらを祭司のところに持って行き、祭司は罪のためのいけにえとなるものを、まずささげなさい。彼はその頭の首のところをひねり裂きなさい。それを切り離してはならない。
9 それから罪のためのいけにえの血を祭壇の側面に振りかけ、血の残りはその祭壇の土台のところに絞り出しなさい。これは罪のためのいけにえである。
10 祭司はもう一羽のほうも、定めに従って全焼のいけにえとしなければならない。祭司はその人のために、その人が犯した罪の贖いをしなさい。その人は赦される。
11 もしその人が山鳩二羽あるいは家鳩のひな二羽さえも手に入れることができなければ、その犯した罪のためのささげ物として、十分の一エパの小麦粉を罪のためのいけにえとして持って来なさい。その人はその上に油を加えたり、その上に乳香を添えたりしてはならない。これは罪のためのいけにえであるから。
12 彼はそれを祭司のところに持って行きなさい。祭司はそのひとつかみを記念の部分としてそれから取り出し、祭壇の上で、主への火によるささげ物といっしょにそれを焼いて煙にしなさい。これは罪のためのいけにえである。
13 祭司はその人のために、その人が犯したこれらの一つの罪の贖いをしなさい。その人は赦される。その残りは、穀物のささげ物と同じく、祭司のものとなる。」
14 ついで主はモーセに告げて仰せられた。
15 「人が不実なことを行い、あやまって主の聖なるものに対して罪を犯したときは、その償いのために、羊の群れから傷のない雄羊一頭、聖所のシェケルで数シェケルの銀に当たるとあなたが評価したものを取って、罪過のためのいけにえとして主のもとに連れて来る。
16 彼は、その聖なるものを犯した罪の償いをしなければならない。それにその五分の一を加えて、祭司にそれを渡さなければならない。祭司は、罪過のためのいけにえの雄羊で、彼のために贖いをしなければならない。その人は赦される。
17 また、もし人が罪を犯し、主がするなと命じたすべてのうち一つでも行い、それを知らずにいて、後で咎を覚える場合、その咎を負わなければならない。
18 その人は、羊の群れからあなたが評価した傷のない雄羊一頭を取って、罪過のためのいけにえとして祭司のところに連れて来る。祭司は、彼があやまって犯し、しかも自分では知らないでいた過失について、彼のために贖いをする。彼は赦される。
19 これは罪過のためのいけにえである。彼は確かに主の前に償いの責めを負った。」



竹久夢二 童話集 春より 博多人形


z10663.jpg


博多人形

 お磯いそは、可愛かあい博多人形を持っていました。その人形は、黒い眼めと薔薇色ばらいろの頬ほおを持った、それはそれは可愛かあいらしい人形でありましたから、お磯はどの人形よりも可愛がっていました。どこへゆく時にも傍そばをはなしませんでした。夜寝る時でさえ、そっと傍へ寝かしてやるほどでした。
 ある日お磯は、牧場へ茅花つばなを摘みにゆきました。やはりいつものように右の手には御気に入りの人形が抱っこされていました。
……つうばな つうばな
一枝折っては帯にさし
二枝折っては髪にさし……
 茅花が、両手に一ぱいになったとき、お磯は人形に言うのでした。
「あなたは好いい児こね。あたしは、お手手が、こんなに一ぱいなんでしょう。ほうら、だからここへねんねして待ってて頂戴ちょうだいな。かあさんすぐ来ますからね。いいこと」
 お磯いそは、人形を草の上に寝かしました。柔かい青い草は、ほんとに気持のよい寝床でした。
……三枝がさきに日が暮れて
かみの庄屋しょうやが泊ろうか
なかの庄屋で宿とろか
しもの庄屋へ泊ったら……
 お磯は、そう歌いながら茅花つばなを摘んでいるうちに、いつか太陽がおちて、そのあたりが薄暗くなって来ました。お磯はびっくりして人形を寝かしておいた所へ来ましたが、どこもかも草だらけで、どこへ人形をおいたやら、探しても見つかりません。
「あたしの坊やどこにいる?」
 いくら呼んでも返事がありません。そのうちに太陽は、ずんずん、お山の向うへ帰ってしまいました。
「まあここにいたの、磯ちゃん、さ帰りましょう」お家うちから姉さんが、呼びにきたのでした。
「だって、あたしのお人形が見えないんですもの」
 お磯はそう言って、姉さんと一緒に探しましたけれど、矢張人形は見つかりませんでした。
「あしたまた姉さんと探しにきましょうね。そしたらお日さまが手伝って探して下さるわ。ね」
 姉さんにそう言われて、お磯もあきらめて、お家の方へ帰りました。
「もしか、お人形が、人買ひとかいに連れてゆかれたらどうしましょう。それともお化ばけが出てきて食べないかしら」
 お磯はそれが心配でした。
 けれど、人買もお化も連れてゆきませんでした。長い草は微風そよかぜにふかれながらも、人形を誰だれからも見えないように、上手にかくしてくれました。だから人形は、日がくれてもじっとそこに寝ていました。
 日が暮れると、一番に出る青い星が、森の上へ出てぴかぴか光りました。
……お星さん お星さん
ひとつぼしで出ぬもんじゃ
千も万も出るもんじゃ
 遠くの方で男の児この歌う声がしました。人形は、もしや私を連れに来るのかと、眼めをぱっちりあけていましたが、歌の声も遠くへいってしまいました。
「どうなることだろう」
 人形はもう泣き出しそうになりました。
……リイリイリイ……
 近くの草のなかで、鈴虫が鳴きだしました。人形は大喜びで、
「鈴虫さん、あたしをお嬢さんのとこへ連れていって頂戴ちょうだいな」
 とたのみました。
「おや、お人形さん。あなたおいてけぼりになったの。でも、あたしお嬢さんのお家うちを知りませんよ、リイリイリイ」と言ってどこかへ飛んで行きました。
……クララ クララ……
 川の淵ふちで蛙かえるがなきました。人形は、また蛙を呼びかけました。
「蛙さん、まだ夜はあけないの」
「おいらは知らないね。お日様が出たらきいて見な。クララクララ」蛙は、つっけんどんにそう言って、ずぼんと川の中へ飛込みました。
 人形は泣きながら、さみしい夜の明けるのを待っていました。
 やっと夜が明けて、近くでチョキンチョキンと鋏はさみの音がしました。それは牧場の番人が草を刈りに来たのでした。
「おじさん、あたしのお人形を見なかって?」
 そう言っているのは、お嬢さんの声だと、人形はおもいました。
「さあ、わしはまだ見ないが」
 番人はそう言ってだんだん人形の近くまで刈ってきました。
「はやく刈って頂戴ね。おじさん」
 お嬢さんも、人形も気が気ではありません。そのうちに、昨夜ゆうべ人形を隠してくれた長い草のとこまでくると、ひょっくり人形が出てきました。
「そうら、いたいた」
 番人が言いました。
「まあ! あたしの坊や!」
 お磯いそは、可哀かあいそうな人形を抱きあげて、頬ほおずりして喜びました。


プロフィール

370815hideto

Author:370815hideto
英人の単車魂へようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Twitter
ここからどうぞ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR