竹久夢二 随筆集「砂がき」より 東京地圖

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東京地圖

 東京に住んでゐては、東京のどこが好いのか、なぜ好きなのか解らないが、東京の新聞も入らないやうな山間の温泉場などへいつてゐて、雨に降りこめられて寫生にも出られないし、持つて來た本も讀みつくした時など、どうかして東京地圖など熱心に見てゐることがあります。なかなか懷しいものです。この町にもこの町にも住んだことがある、さう思ひながら、その時の生活や、生活の感覺を思ひ出します。
 物心がついてからずつと東京に住んだ私にとつては、一片の東京地圖は、實に有機的な私の人文科學史です。いろんないやな記憶さへ、自分を憐む材料にさへ役立ちます。
 少年の頃、鹽原の奧で桐の空の咲いた畑の端に腰かけて、電車の往復切符を、ポケツトから見出して、東京へ寄せる感傷的な詩をかいたことを思ひ出します。
 さてどこが好きなのか、何故好きなのか、理窟はありません。おそらく日本の國土も、異國の旅へ出たらこんな風に思ひ出されることでせう。



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