海潮音拾遺 上田敏訳 ギイ・シャルル・クロオ

__ aa90

「世間のある人人には・・・・・・」


世間のある人々には、その日々の消光(くらし)が
ひとりで牌(ふだ)を打つパシアンスの遊(あそび)の如く、
またはすつかり覚(おぼ)えこんだ日課を
夢うつゝで譫語(うはごと)に言う如く、
またはカフェエに相変らずの顔触(かほぶれ)と
薄ぎたない歌留多札を弄ぶやうだ。
ある人々には、一体(いったい)、生(いのち)はごく手軽な、
造作も無い尋常一様の事で、
手紙を書いたり、一寸(ちょっと)は「あそび」もしたり、
とにかく「用事」は済ませてゆく。
してその翌日(あくるひ)も同じ事を繰返して、
昨日に異(かわ)らぬ慣例(しきたり)に従えばよい。
即ち荒っぽい大きな歓楽(よろこび)を避(よ)けてさえいれば、
自然また大きな悲哀(かなしみ)もやって来ないのだ。
ゆくてを塞(ふさ)ぐ邪魔な石を
蟾蜍(ひきがえる)は廻って通る。

しかし、君、もし本当に生きていたいなら、
その日その日に新しい力を出して、
荒れ狂う生(いのち)、鼻息強く跳ね踊る生(いのち)、
御(ぎょ)せられまいとする生(いのち)にうち克たねばならぬ。
一刻も息(やす)む間の無い奇蹟を行ってこそ
乱れそそげたこの鬣(たてがみ)
汗ばみ跳(はず)むこの脇腹、
湯気を立てたるこの鼻頭(はなづら)は自由に出来る。
君よ、君の生(いのち)は愛の一念であれ、
心残りの錆(さび)も無く、
後悔の錆(さび)も無く、
鋼鉄の清い光に輝け。
君が心はいつまでも望(のぞみ)と同じく雄大に、
神の授の松明(たいまつ)を吝(おし)むな。
塞(ふさ)ぎがちなる肉身(にくしん)から雄々しい声を噴上(ふきあ)げよ、
苦痛にすべてうち任せたその肉身から、
従容(しょうよう)として死の許嫁(いいなづけ)たる肉身から叫べ。
宝玉は鉱石を破って光る。




スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

370815hideto

Author:370815hideto
英人の単車魂へようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Twitter
ここからどうぞ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR