ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー詩集 中原中也訳 教会に来る貧乏人


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 教会に来る貧乏人


臭い息いきにてむツとする教会の隅ツこの、
樫材かしの床几(しやうぎ)にちよこなんと、眼めは一斉に
てんでに丸い脣くちしてる唱歌隊へと注がれて。さて
二十人なる唱歌隊、大声で、敬虔な讃美歌を怒鳴どなります。

蝋の臭気にほひを吸ひ込める麺麭の匂ひの如くにも、
なんとはや、打たれた犬と気の弱い貧乏人等が、
旦那たり我君様たる神様に、
可笑しげな、なんとも頑固な祈祷おいのりを捧げるのではございます。

女連をんなれん、滑らかな床几に坐つてまあよいことだ、
神様が、苦しめ給ふた暗い六日むいかのそのあとで!
彼女等あやしてをりまする、めうな綿入わたいれにくるまれて
死なんばかりに泣き叫ぶ、まだいたいけな子供をば。

胸のあたりを汚してる、肉汁食スープぐらひの彼女等は、
祈りするよな眼付して、祈りなんざあしませんで、
お転婆娘の一団が、いぢくりまはした帽子をかぶり、
これみよがしに振舞ふを、ジツとみつめてをりまする。

戸外には、寒気と飢餓と、而も男はぐでんぐでん。
それもよい、しかし後刻あとでは名もない病気!
――それなのにそのまはりでは、干柿色の婆々連ばばあれん、
或ひは呟き、鼻声を出し、或ひはこそこそ話します。

其処にはびツくりした奴もゐる、昨日巷で人々が
避よけて通つた癲癇病者てんかんもゐる、
古いお弥撒みさの祈祷集おいのりぼんに、面つらつツ込んでる盲者めくら等は
犬に連れられ来たのです。

どれもこれもが間の抜けた物欲しさうな呟きで
無限の嘆きをだらだらとエス様に訴へる
エス様は、焼絵玻璃やきゑがらすで黄色くなつて、高い所で夢みてござる、
痩せつぽちなる悪者や、便々腹べんべんばらの意地悪者いぢわるや

肉の臭気や織物の、黴かびた臭にほひも知らぬげに、
いやな身振で一杯のこの年来の狂言におかまひもなく。
さてお祈りが、美辞や麗句に花咲かせ、
真言秘密の傾向が、まことしやかな調子をとる時、

日影も知らぬ脇間わきまでは、ごくありふれた絹の襞(ひだ)、
峻厳さうなる微笑ほゝゑみの、お屋敷町の奥さん連れん、
あの肝臓の病人ばらが、――おゝ神よ!――
黄色い細いその指を、聖水盤にと浸します。

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